散らないサクラ
俺の学園のセンコーだと聞いた時から、後ろで様子を窺っていた歩が一歩前に出た。
そして口を開く。
「秋のセンコーさん。センコーが一般市民に手を出して、血ィ流させていいと思ってんの?」
怒りを押し込めた低い声。
まあ、こんだけ根城を荒らされて黙っていられるわけがない。
これでもコスモスの副総長だ。
俺の隣に並んで、同じように女を睨みつける歩。
「血?」
態度の変わらない女は笑っていた顔を崩し、きょとんとした。
そしてまた笑う。
「血なんか流させてないよ。ああ、あたしの拳についてる血? これはあたしの血」
ぺろり、と女は自分の拳に着いた血を舐める。
「若い奴らは野蛮だからねぇ。刃物とか持たれちゃったら無傷ではいられない」
女に意識を集中させつつ、視線を倒れている輩に向ける。
ぴくり、とも動かない輩たち。
だが、よく見ると確かに血の流れている形跡はなく、ただそこに倒れている、というだけ。
血が滴っているのは女の拳以外、どこにも流れていない。