散らないサクラ
「姉さんが継ぐべきなんだよ。……ホント、あの人がこの組を背負って行くための全てを持ってる」
自分に力がまだ及ばない事を知っているその言葉には、俺には計り知れねぇ苦労や努力があるのだろう。
語る重さも、意味の重さも。
俺には想像する事しかできねえ。
だけど、……弥生はその意味も重さも全て知って、受け入れている。
「……でも、弥生はお前だから託したんだと思うぞ」
素直に思った言葉がすっと口から出た。
その言葉に疾風はクッ、と瞳を寄せた。
意味が分からないと言ったように俺の瞳の奥の真相を探る。
「なに?」
「……てめぇの中にある、そういう所を信じたんじゃねえのか」
「そういう?」
「人の痛みを知って、自分の立場を知る。それに加え、今の立場になるためにも努力してきてんだろう? そういう所をあいつは見て、組を任せてもいいと思ったんじゃねえ?」
疾風の瞳が際限なく開かれた。
は、何をそんなに驚く必要がある。
俺は少し意地の悪い笑を浮かべ、それでも優しくあいつの瞳を捉える。
「兄弟だから譲ったワケでもねえ、情けでもねえ。……てめぇの中にあるモンを見抜いてたんだろ。あいつがそう言う奴だって、俺は知ってる」
少なくともそれぐらいは。
出会って一緒にいる時間は短いし、まだまだ知らねえことなんか腐る程ある。
でも、あいつの本心が、あいつの芯がどこにあるのか。
それは見てきて一番に分かる。
何に対しても揺るがない、人の中身を見てくれる人間。
良くも悪くも無鉄砲。
……それでいて中はあったけえ。