散らないサクラ
俺はふっと笑をこぼす。
「いい姉貴を持ったな」
疾風は開かれたその瞳を左右に揺らすと俯いた。
「……は、ははは」
そして頼りなく笑う。
「考えた事なかった……。俺が場所を奪ったんじゃなくて、姉さんが託してくれた、なんて事。俺は…………」
その声は一見頼りなく見えて、でも土台はしっかりしていた。
何か希望の光を見出したような、そんな期待がこもった声だった。
俺はもうすっかり熱をなくした茶を最後まですすると、湯呑を机に置く。
コン、と場にはそぐわない陽気な音を立てた。
「はぁー……。まさか、天下の“血塗りの獅子”に説かれるとはね」
茶化すような言葉に悪意は感じなかった。
俺はその異名に少し眉を寄せながらも、疾風の顔が晴れやかになっていくのを見ていた。
安心したように目を細めるその顔は、やはり弥生と似てンな、なんて思いながら。
先ほどよりも穏やかな空気が流れる。
さっきは緊張してか余裕がなかったからか、わからなかったが。
畳の臭いや、水の流れる音、木々の風にそよがれる音。
……妙に落ち着いた。
目を瞑ると……、このまま眠っちまいそうだ。
「なぁ、秋羽」
が、疾風の声によって閉じられた瞳を数秒で開く羽目になる。
「あ?」
「……姉さん、一筋縄どころじゃ振り向いてくれないよ」
今度は逆に意地悪い顔をしながら俺に笑いかける疾風。