散らないサクラ
* * *
金色の襖の奥。
殺伐とした雰囲気が漂う中、そこに在る二つの息。
だだっ広いこの空間に敷かれた布団の上に上半身だけを起こし、蓄えた髭に手を伸ばす男。
この鷹匠組を率いる男、膳左城之助(ぜんざじょうのすけ)である。
くっきりと刻まれた眉間の皺と鋭い眼光が威厳を強調する。
そしてそのすぐ横に正座をし、男の言葉を待つ佐倉弥生。
弥生は静かに城之助の動向を伺いながらも、この沈黙に耐えているのを感じる。
城之助は髭に伸ばした手を布団の上に置くのをきっかけに口を開いた。
「これを機に、俺はこの座を疾風に譲る。退くには十分な時だろう」
言い切った城之助にピクリと弥生の眉がピクリと動く。
「組長、お言葉ですが、疾風が成人してからと言うお話だったはず。突然の就任では組の者も納得しかねるかと」
「だからいい機会だと言っただろう」
まるでどうってことない、と言い放つ男に弥生は静かに息を吸い込んで吐く。
相変わらずの返答に呆れつつ、反論の異を唱える。
「では、疾風の失態を許せる寛大なお心があると?」
退いてそこに疾風を置くと言うことは組に関わるような問題を起こしても、それをフォローできる気持ちがあるという事じゃないか。
弥生の瞳が細めた城之助の瞳を捉え逃すことなく追う。
城之助は途端に不機嫌になったかのようにゆっくりと眉を釣り上げると、咳払いをするかのように自然と言ってのける。
「ないな。許すもなにも自分のケツは自分で拭くもんだろう」
さも当然だと言わんばかりの言い草に、弥生の脳みその何かが切れる。
ブチ、とたぶん毛細血管のような細い血管が。