散らないサクラ
「……あー、もう畏まるのやめた。いい? 耳の穴かっぽじってよく聞きなクソじじい。あんたが疾風に言ったんだ。成人してなら自分の行動、言動にも責任を持てる。その上、教える事がまだあるって。それがなんだァ? 倒れたから譲る? フォローはしない? はっ、鷹匠の頭が聞いて呆れるね。……自分の言ったことすら守れないような男の座に疾風は置かせないよ」
疾風(しっぷう)が駆け抜けるが如く言い終えると、弥生は満足げに息を吐いた。
流れるように言われた言葉に城之助は驚くこともなく、慌てることもなく、首を縦に振る。
同じように満足だと言わんばかりに。
「やっと化けの皮を剥いだな。久しぶりに顔を見せに来たかと思えば、他人形にしやがって」
ふっと笑みを零してみせるその顔は鷹匠の組長としてではなく、一人の父親としての穏やかな色をしていた。
その顔を見てか流れる雰囲気の緊張感がなくなったからなのか、弥生の肩からも力がふっと抜けていく。
先ほどとはまた違う空気が流れる中で、弥生が穏やかに口を開く。
「親父が焦る気持ちも分かるよ。だけどさ、命に別状はないわけだろ。まだ、時間はある。……疾風にいまその席をあげるのは早すぎる」
「…………」
「だいたい、アンタがこんな早くくたばる命(たま)じゃないでしょう」
そう言って呆れたように笑う弥生に城之助は初めて不安の色をみせる。
「……倒れてな、意識の淵をさ迷ってる時、桜里(おうり)と会ってな」
桜里、その名前に弥生の眼光が揺れる。
「何も言わずただ突っ立てるだけなんだが、その顔が笑ってるんだが、泣いてるんだが分からなくて。俺は何もできず見てるしか出来なかったんだ」
「……泣いてるわけないだろ」
「だといいがな」
桜里、それは弥生の母、つまり城之内の前妻の名前だ。
他界し今は亡き、二人にとって愛しき人。