散らないサクラ
「そんで目が覚めた時、一番に思ったのはおめえと、疾風のことだ。俺だって分かっちゃいる。疾風にいまの組は預けるには早い。……だがな、倒れた今だからこそ後ろ盾になっちゃあくれる人間がいるんじゃねえかってな」
一語一語に含む愛情の重さを弥生は耳奥に入れていく。
親として組長として、疾風の事を考えているのは分かっていた。
もしもの事があったら自分は守ってやれない、そうなれば自分の身は自分で守るしかない、と。
弱く育ててきたつもりはないが、それでも“親”として“子”を心配する表れでもあったのだ。
「……それでも約束は約束だよ。20歳になるまで、大人になるまで、疾風にその席はあげちゃだめ。命があるんだったら、その命の分だけ疾風に伝えること伝えて、そんで死んでいけばいい」
「……そうだな」
桜里に会ってちょっと感傷的になってたかもしれん、と吐き捨てた城之助に弥生は穏やかな笑みを見せた。
この人が桜里を愛してたと言う証拠に、胸が暖かくなったのだろう。
「疾風には自分の口から伝えなよ? あいつ絶対不安でいっぱいだろうし、その不安を親父がちゃんと取り除いてやって」
「分かってる」
何処か安心した顔をみせる城之助に、やはり鷹匠の組長としても人の親なんだという事が分かる。
暫く鷹匠という仕切りをとっぱらった家族としての会話を交わした。
秋羽を待たせている弥生は腕時計を一瞥し、あれからずいぶん時間がたった事に気付く。
「そろそろ行くね。完治するまで身体には気をつかう事」
いい娘のような台詞に弥生は苦笑いをもらすと、腰をあげようと姿勢を変える。
「……弥生」
重さの残る声に、あげた腰が自然と元の位置に戻る。