散らないサクラ


ホントに思春期の餓鬼かと思うくらい一日中弥生の事を考えた。

旦那の墓の前に手を合わせ、あいつは何を思うのか、とか。

どんな顔をして旦那を思うのか、とか。

考えれば考えるほど、俺はその内情を知れないのがもどかしく、悔しく、情けねえ。



「今日は文化祭の準備、他の子に任せるから帰りなよ」



ああ、こんな状態じゃ使い物にならねえからか。

そりゃそうだ、と視線をあげ原沢を見る。

だがそこにあったのは俺が想像したものとは違った顔だった。

労わるような、慈しむような、何か優しい色をしていた。



あとあと考えたら、俺が恋煩いをして悩んでいる姿を微笑ましく思っていたんだろう。

ま、恋愛初心者の俺は原沢からみたら可愛いモンだったに違いねえ。

そう思うと癪だが、誰かに無償で心配される有り難みを知った気もする。



俺は原沢の提案に乗り、文化祭準備、もとい雑用は休業させてもらった。

つかもともと雑用なんてしたくねえのが本音だ(いつの間にか慣れているのが怖い)。



「秋羽さ」



机に乗せた脚を床に着地させ、教室を出ようする行動が止まる。

原沢の声が背中に刺さる。



「あたしも偉そうな事言えないんだけどさ。考えても実行しなきゃ意味ないんだよ」

「なにが言いてえ?」



その言葉に向けていた背を反転させる。

原沢は真面目な顔をして俺を見ていた。





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