散らないサクラ



* * *



一度心に住み着いた拒絶は、深い所で根を張る。

原沢の言葉に励まされて気分は浮上したものの、家に帰る足取りは重い。

マンションが見えて来るたびに、拒絶の言葉は重く重くのし掛かり、弥生の冷たい声さえも聞こえ始める。

だが、それを振り払う事を決めた。




当たって砕けろ、上等だ。

粉々になっても再生を繰り返し、また何度でも当たりに行ってやる。




バイクを駐輪場に停め、エレベーターを使わずに階段で部屋まで登る(かなりの距離がある)。

チームを抜けてから日は浅いとは言え、体力は随分と落ちたようだ。

ジムにでも通って鍛えるのもいいかもしれねえ、なんて事を考えていると、目の前にはいつもより大きく見える部屋の扉。



――――答え、見つかった?



ああ、とっくの昔から答えは出てる。

俺の情けなさが答えを霧の中に隠し、自分が自分を翻弄していただけだった。



死人が相手だろうが関係ねえ、俺を見てもらう。

俺を、愛してもらう。



俺が、最愛になる。





合鍵で部屋を開けると、相変わらず小奇麗な玄関と廊下が広がっていた。

そして聞こえ出す、軽快な笑い声。

二人が家に帰ってきていのを確認し、一度深呼吸する。



何も怯える必要はない、俺という存在を認識させ、俺という物を埋め込む。

話はそれからだ。

あいつが俺に触れ、あいつの核心に俺が触れるまで、……俺が諦めなければいいだけだ。

もちろん諦めるなんて言葉は最初っから俺の中にはない。


ふん、と鼻から息を吐き廊下を歩き出す。

冷たいドアノブに手をかけ回す。





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