散らないサクラ
「お帰り、秋」
よっと片手を上げ、柔らかく笑みを浮かべたリョウを目尻に、隣で一升瓶を片手に笑う弥生を見て行動が止まる。
真っ赤になった顔、耳、そして重たそうな瞼。
更にはいつも以上に高いテンション。
俺を見つけると、ニタリと気持ち悪い笑みを浮かべ手を振るその姿。
「お、やぁっと帰ってきたのか不良のあきちゃん! ただいまが聞こえないぞぉ? ほらぁ、ただいまー?」
「…………」
俺は弥生にやった目をリョウに向け、そしてまた弥生、リョウと繰り返した。
リョウは説明する気もないようで、俺の驚いた瞳を見て笑い、そして隣に座れと促した。
……この状況で座れねえだろう、内心ではそう思いながらも上機嫌な弥生の隣に腰を下ろす。
「リョウさん、こ」
「ん、秋、お前も飲むか?」
この状況を訪ねようとする言葉に静止がかかる。
……それがなにを意味するのか、悟る。
俺は空のグラスに注がれたビールを一気に煽ると、強めに机に叩きつけた。
ガコン、と割れそうな音を立てたグラスからはゆっくりと泡が落ちていく。
――――俺の入っていけない領域。
覚悟してた痛みに揺れるなんて無様過ぎるだろう。
押さえつけられるような感覚に不快感を覚えながら、眉をひそめる。
「さてと、秋も来たことだし俺はちょっと仮眠取るかなぁ」
俺のそんな状況を見かねてか、リョウがグラスに入ったバーボンを飲み干すと立ち上がった。
そして一升瓶をそのまま口につけて飲もうとしている弥生の頭を愛おしそうに(いや、悲しそうに?)撫でると背を向けて歩き出す。
こんな状態の弥生と、状況を理解してない俺を残して行くのは非道過ぎるだろう。