散らないサクラ
「……う、うぅう。ばか、ばか、ばか、…………どこ、いったの、竜?」
目の前には、愛する男を思って泣く、愛しい女。
苦しそうに歪められる顔からはそれほどまでに、弥生が男を愛していたと言う感情。
こんな姿になるまで(あの気丈な女が)、想い続ける男。
「りゅう……、りゅう」
呼ばれる名前に、愛情が篭ってる事なんてすぐ分かる。
まるで恋人のように、まるで親のように、まるで……旦那のように。
それは愛すべき人間を呼ぶときの響きだ。
ぐぐぐ、心臓が収縮する。
なぁ、お前にとっての最愛がそいつなら、俺にとっての最愛はお前なンだよ。
お前に愛を与えてくれたように、俺はお前から愛する気持ちを貰った。
お前が助けられたように、俺もお前から光りを与えてもらった。
……俺にとっては、……俺にとっては。
「お前が……、最愛なのに」
呟いた言葉に覇気はなく、吐き出した瞬間に粉砕する。
……虚ろな目で愛しい男を呼ぶ弥生を、ぼんやりと見る。
なにしてンだよ、と心の奥で俺が言う。
好きな女の涙を始めてみて、凝視し固まり、お前は愛してる女の涙を拭ってやることすらしねえぇのか、と。
俺はゆっくりと、手を伸ばし弥生の瞳から頬に溢れる涙を拭う。
大きな目から溢れた大きな粒は、俺の手を伝ってまた絨毯に染みを残す。
「弥生」
自分でも驚く程優しい声色が出た。
まるで……、愛しい者を呼ぶみたいな。