散らないサクラ
* * * *
目覚めると隣のぬくもりはすでにもぬけの殻。
上半身を起こし無造作に髪を掻きむしりながらぼうっと昨日の事を考えていた。
ぼんやりとしながら、時計を見ると11時を指している。
さすがに寝過ぎだろう、と深いため息をついてベッドから這い出た。
リビングに出るとリョウがキッチンに立って、買い物袋を漁っているのが目に入る。
「お、秋、お前タイミング良すぎ。これから飯作ろうと思ってたんだ、何食いたい?」
手にじゃがいもとにんじんを持ちながら屈託なく笑うリョウ。
袋から覗かせるカレールーの箱が“今日はカレーだ”と物語っている。
聞く前から答えは決まっていたようだ。
俺はカレー、と短く答えると重たい身体をソファに投げだす。
相変わらずの皮のソファは包み込むように俺を飲み込む。
重たい瞼をゆっくりと閉じて、小さく深呼吸をする。
その後、瞳を開けるといつもよりか狭い視界がチカチカと日の光を捉える。
この光にすら苛立ちを覚えていた頃が、妙に懐かしい。
眩しさに目を細めながらリョウを呼ぶ。
「なあ、リョウさん」
野菜を洗いだしたリョウは顔を上げることなく対応する。
「ん?」
「俺、昨日ゴムしなかった」
普段の会話と同じトーンで言うと、リョウも同じように同じトーンで“そうか”と返してきた。