散らないサクラ



真相を知ろうとリョウの瞳を覗けば、緩く温かく見返された。



「お前の覚悟も十分伝わってるよ。そこまで弥生の事を思ってくれてありがとな」



でもそんな覚悟を見せてくれて悪いけど、とリョウは続ける。



「あいつ、お前とセックスした日からピル飲み始めたから」

「…………は?」

「万が一って事もあるって言ってな。……だからたぶん、その可能性ないわ」



バツ悪そうに告げられた言葉に思考が一旦停止。

それからすぐに回転し始め、言葉の意味を理解した身体の核がふつふつと湧き上がる。

沸騰に似ている感覚に、ついて出たのは罵倒だった。



「あっンの糞アマ!! なら最初から生ですりゃあ良かった!!」



誰に向かって言ってるのか分からないが、吐き出さずにはいられない。



ピル、要は避妊薬だ。

俺は端っから信用されてなかったワケだ。

信用されるほど長い期間いたわけじゃないが、それでも大事な女を抱くのにコンドームつけないほうがオカシイだろ。


そう考えてはっとする。


俺は昨日、それをしなかったンだ、と。

弥生に対してなのか、自分の不甲斐なさに対してなのか、悪態をつくように舌打ちをする。



「……まぁ、ほら、弥生の気持ちも分かってやれ」



ガシガシ、と無造作に髪を掻き毟る俺を見て、リョウが宥めるように言葉をかける。





< 177 / 300 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop