散らないサクラ
「自分の保身の為にそうしたわけじゃなく、秋、お前自身を思ってそうしたんだ」
「…………」
分かってる、ンなの弥生の性格を考えれば分かる。
まだ社会的に餓鬼に子供を養える能力なんてあるはずがねえ。
万が一……、万が一そうなったら弥生の背負うものを重くするだけだ。
弥生の選択は正しい。
だけど、それでも。
「……信用されてねえ事には変わりねえ」
心の何処かでガキが出来れば、弥生との間に既成事実を作れば、何か変わるんじゃねえか、って思った事もあった。
だけど望んでないソレにいったい何の意味があるんだ。
結局の所、考えたって弥生が苦しむ結末しか見えてこなかった。
最後にはこうしてまた弥生に守られてる自分に落胆するだけだ。
なにもかも、俺はあいつに守られてる。
肩を落とし、浅く息を吐く。
「秋、信用ってのは簡単に得られるわけじゃないだろう? 時間がかかるもんだ。だけどな、弥生は少なくともお前を大事な人として見てる事は確かだよ」
「大事な、人?」
「そ、大事だからピルを飲み始めたんだ。お前の未来に傷がつかない様に。……信用問題の話じゃなく、お前を大切に思ってるからの行為なんだ」
リョウの言葉は偽りも、慰めの要素も入っていない。
真実だと、曇りない言葉が伝えてくる。
心臓が凝縮されたような感覚に、俺は無意識に胸の真ん中を押さえる。
俺は俺自身が弥生に何もしてやれない事ばかり考えて、弥生から与えられている物が見えなくなっていたのだろうか。
拒絶されて、怯んで、動けなくなって、また拒絶される事を恐れて。
あいつから向けられている物を見えてなかったのか。