散らないサクラ


単発な音が消え、歩の目が見開かれる。



「なにを」



歩の驚く声もそのままに、女教師は秋羽が息を吸うのに合わせて自分の息を流し込む。

ふーっ、ふーっ、とまるで風船に空気を入れるかのような音が部屋に充満した。

秋羽の瞳は相変わらず何も写してはいなかったが、次第に整えられた瞳がゆっくりと重力に従って落ち始める。

皆が固唾を呑んでいる中、秋羽の意識は宙に舞ったようだ。

力をなくした体は前のめりに倒れていき、唇を離した女教師の腕の中へと落ちていく。



「っと。……ふぅ、病気持ちとは知らなかったな」



女教師は口元を拭うと秋羽の金髪をさらりと撫でた。

腕の中で瞳を閉じている秋羽の荒かった吐く息は規則正しいものへと変化していた。

女教師は慈しむ様に秋羽の金色の髪をすくって撫でる。



「秋羽」



秋羽の耳元で囁いた声色は今までのどの音より優しかった。





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