散らないサクラ
「……はらさ」
「前から思ってたけど、秋羽くんってイケメンだよねぇ。眉毛が短いのがちょっと怖い印象だけど」
「ああ、分かる分かる! 最初は怖いイメージしかなかったけど、話していくうちにそうじゃないって気づいて、そしたら、え、ただのイケメンじゃんって」
ふざけんな、こんな事をやめさせろ、と原沢に口を開くがそれも女子たちの声にかき消される。
仕舞いには俺の話で盛り上がる始末。
女ってのは群がったら群がっただけ煩くなる生物だと再認識する。
会話に火が着いたのか笑い声高々に騒ぐ女子たちを横目に、原沢を見ると両手を合わせ、“ごめん”と口を開く。
こうなったら最後、俺は宣伝役として歩き巡ることが決定する。
ただでさえ面倒な行事だってのに、更に面倒事を抱える羽目になる。
始まったばかりの文化祭に思うのは“早く終われ”それに尽きる。
「……やってらンねぇな」
宣伝役として歩き出して3分。
俺は看板を片手に裏庭にある石の階段に腰を下ろし、一服。
ふわふわと遊ぶように昇っていく煙を目で追いかけながら、行事ごとをサボるのは俺の特権だな、なんて呑気に考えていた。
ああ、サボり以前に学園にすらきてなかったか。
それが今じゃクラスの連中に“秋羽くん”扱い。
そしてそれに悪い気がしてない自分自身に苦い笑いが漏れる。
目を閉じると秋風が金髪を揺らして通り抜け、土と草の匂いを運んでくる。
穏やかな空間に、今文化祭が行われていることを忘れてしまいそうになる(既に忘れている、か)。
が、そんな穏やかな時間に分け入る弾けた声に閉じた瞳が開かれる。
「おー、いたいた。秋!」
陽気な声は明らかに俺を呼ぶ。