散らないサクラ
聞きなれたその声に顔を向けると、
「……歩」
よっ、と片手を上げて笑みをみせる歩がいた。
日に焼けてない白い肌が太陽に照らされて光る。
文化祭の事を知らせてはないが、弥生が誘ったんだろう(それしか考えられねえ)。
久しぶりの友との再開に自然と口角が上がり、歩と同じように片手を上げた。
「つか、秋、お前のカッコ……。ぷぶ、超、ウケル」
「っせ。“執事喫茶”なんだと」
「いやいや、金髪の執事なんかいたら世の中大混乱よ?」
「……着せた奴らに言えよ。俺は拒否ったンだよ」
「ま、そうだろうな。喜んで着てたらそれこそ吃驚だわ」
軽口の叩き合いも久しい。
常にイライラはしていたが、コスモスにいた頃はこうして戯れていたのを思い出す。
月日が経ってないはずのそれを懐かしく思うのは、俺の中で踏ん切りがついた証拠なんだろうと思った。
歩も同じように石段に座り、煙草に火をつける。
俺と同じ銘柄の煙草の香りは鼻から入って、馴染むように身体に溶け込んだ。
二本目となる煙草に火を着ける。
「弥生か?」
「ん、そうそう。佐倉さんに誘われてな。“秋の面白い格好が見れるよ”って」
あのアマ。
「この場所も佐倉さんから聞いた。店にいないなら、ここだろうってさ。んで、秋羽に会いたいらしくって下の連中も大勢来てるぜ」
何でもお見通しの弥生の言葉を暖かく感じつつ、短く、そうか、と返す。
俺がチームを抜けて数ヶ月、歩は“リオン”と言う新しいチームを作った。
後釜だっつったら聞こえは悪いが、コスモスを継ぐチームだと、誇らしげに言われた。