散らないサクラ
「ちょ、ちょ、秋、番犬! 分かってんだろ? 此処は学校! な、学校だ」
俺たちの不穏な空気を察した歩が間に入る。
静止をかけるように番犬と俺の顔を交互に見る顔は、焦りと不安が入り混じる。
「ちっ……、分かってる、しねぇよ」
「ちぇ、つまんないの。……ま、分が悪いしねぇ」
「はぁ……。頼むぜ、まじ」
安堵したように吐かれたため息に、ようやく臨戦態勢を解く。
どうやら番犬にも戦闘意志は低かったようで、俺の言葉につまらなそうに口を尖らせると足元にあった小石を蹴った。
「と、言うかさ、さっきの様子じゃ聞いてないんだね」
ぴくり、と俺の眉が動くのと同時に、歩がバツ悪そうに身じろきした。
番犬が呆れたように歩を一瞥するとポケットから煙草を取り出して火を着ける。
紫煙が一筋の道を示すように上へ上へと上がっていく。
「……歩」
地を這うような低い声が出る。
責め立てるような意を込めて歩を睨みつけると、それに怯んだのか、一瞬で逸らされる。
「俺が言うよ。きっと猫ちゃんじゃ言いづらかったんでしょ」
「だから、猫ちゃんはやめろ」
常に笑った状態の番犬は歩の本当に嫌そうな顔を見て、更に笑みを深めた。
「あは、ごめんごめん。とりあえず、獅子、俺はアンタに負けて、燃焼し尽くしたワケ。獅子とのタイマンは楽しいし、コスモスとの喧嘩も楽しかったよ。でも、俺も馬鹿じゃないからね。もう吹っ切れてるよ」
煙草を片手に番犬がまるで降参を意味するかのように両手を上げた。