散らないサクラ
「獅子にも獅子の女にも手を出す気はサラサラないの。敵意はゼロです!」
胡散臭くへらっと笑う。
いつも答えをはぐらかす様に真っ直ぐ言葉をぶつけてこなかったコイツが、はっきりと敵意はない、と宣言した。
その事に多少驚きながらも、こいつの覚悟が本物なんだろうという事を確信する。
あの日から変わっているのは番犬も同じなのかもしれない。
自分の不甲斐なさ、無力さ、全てに対して何かしらが変化をもたらしたのだろう。
もちろん番犬がしたことについて許す気はこの先ない。
だが、こうやって俺に執着を見せ、戦ってきた相手としてはその変化に安心した。
……気に食わねえことには気に食わねえけど。
「……で?」
「わ、獅子冷たい!」
悪いな、そこで優しい言葉をかけてやるほど俺は出来た人間じゃねえンだ。
心の中で軽く番犬を笑いながらも、番犬と……歩の真意を知ろうと言葉を続ける。
「早くしろよ」
「はいはい、話すよ?」
番犬は歩に了承を得るように視線を向けると、歩は遠慮がちに一度頷いた。
視線は地面に落ちたまま。
「……“狩り”をされたよ。東町の漣(さざなみ)、西町のエデンが取られた」
南町の暴走族のトップがコスモスであったように、北町はハデス、東町は漣、西町はエデンと、各町にそれぞれトップが君臨している。
1番勢力がでかいのがハデス。
そしてハデスの傘下にケルベロス、番犬のチームが存在している。
番犬の淡々とした言葉に眉を寄せる。
ハデスの様に有名なチームではないにしろ、漣もエデンもそれぞれ強豪であったはずだ。
それこそ何度も喧嘩して、拳を付き合わせてきた奴ら。
簡単に取られるチームじゃない事は実際に戦ってきた俺が分かってる。
だからこそ、番犬の言葉を疑わずにはいられない。