散らないサクラ
「簡単にヤれねえ事も分かってんだろ。ハデスにしろリオンにしろ、力は西と東よりも上だ。……確実に潰すために準備は必要……、暫くは動かねえと思う」
「はは、さすが“血塗りの獅子”。ハデスの幹部もみんな同じ事言ってた。まぁ、俺達ケルベロスも簡単に取られる気はないからねぇ」
“番犬”の顔になる。
喧嘩を心底楽しみたいと言う狂気を孕んだ笑みはあの時のまま。
それを懐かしく感じつつ、未だに俯いて地面と睨めっこをしている歩に瞳をやる。
「おい、歩。てめえ、なんでこの事黙ってた」
その問いにゆっくりと顔を上げる。
垂れ下った眉が申し訳なさを象徴させる。
「……秋、もうチーム抜けてンだろ。なんつーか、もう関係ねえのに巻きこんでいいのか、とか。さっきの穏やかな顔みたら喉元に詰まって言えなかったんだよ」
馬鹿か、と怒鳴りたくなる気持ちがすっと心臓の奥に引いていく。
歩の気持ちが分かる、俺を巻き込まんとしたのは歩の優しさだ。
チームを抜けて一、学生として過ごしている俺にはまったく無縁な世界。
それなのにも関わらず、すでに仏と戦う気満々でいた俺に驚く。
――――我に帰る。
俺はコスモスを貰い、チームを抜けた。
大事な女、弥生を守る為に俺は自分の意志であの世界から足を抜いた。
もう無益な喧嘩はしねぇと、誓った。
ぐっと奥歯を噛み締める。
過去の俺と現在の俺が葛藤している感覚は非常にもどかしく、むず痒い。