散らないサクラ
そんな俺の微妙な表情を読み取ったのだろう、歩が遠慮がちに口を開く。
「や、秋。マジでいいんだ。俺も番犬に呼ばれてハデスの幹部連中に話聞いたんだ。まさか、仏が動くとは思ってなかったから驚いたけど、俺たちでなんとか出来る問題だと思うし。な、あんまり気にしないでくれねえか?」
歩が自らの意志で此処に来たとは思えない。
きっとハデス連中に今回だけでも俺を引き戻した方がいい、と言われ、歩自身もそれがいいと思ったんだろう。
確かに俺がハデスの立場だったら同じ事を言うと思う。
戦力はあったに越した事はない。
そして俺も戦力になるだけの力は持っていると自負している。
歩が小さく笑う。
「俺だって今のお前の生活を壊す気はねえんだ」
気にするな、と言うようなその頬笑みに心臓が軋む。
ホント、俺は無くしてから気づくものが多すぎる。
あの頃だって何度も何度も、歩の優しさに助けられ、歩の優しさに甘えてきたはずだ。
今回も頼もうとしたが、俺を思って巻き込まない、と言う。
てめえはどんだけ大人なんだよ。
そして、俺はどんだけ餓鬼なんだよ。
「猫ちゃ……、じゃなくてぇ、歩ちゃんの言いたい事も分かるけどね。俺としては獅子に参戦して欲しいんだよね」
「……番犬」
諭すように歩が番犬を呼ぶ。
「だってそうでしょ? 獅子、アンタの戦力は正直デカイよ。ハデスとケルベロス、そしてコスモスが連携取れれば勝機はある」
真剣みを帯びた眼光が俺を指す。
番犬のこんな顔を拝めるのは珍しい。
口元には相変わらずの笑みがあるのに、瞳の奥には喧嘩の時にしか見せねえ、熱の色が篭っている。
それほど番犬の思いも、ハデス連中の思いも本物なんだと思い知らされる。