散らないサクラ
「秋、いい……のか」
「馬ァ鹿、まだ結論出してねえよ」
「ま、出したって言ったようなもんだけどねぇ。心構えが必要なんでしょ? いいよ、待つよ」
「はっ、何様だ、てめえ」
分かったような口ぶりに悪態をつくが、その通りだとも思う。
たぶん、俺はこの戦いに参戦する。
ここではっきりと断言出来ねえのは、番犬が言ったように心構えもそうだが、きっちりと感情に整理をつけたいからだ。
「あは、でも良かったよ。交渉決裂なんてなったらハデスにどう言い訳しようかと思ってたからさぁ」
「は? お前、ハデスの幹部と話してる時、絶対参戦させる術があるとかなんとか言ってなかったか?」
「ああ、あれ? 歩ちゃん信じちゃったの、嘘だよ、ハッタリ」
「……ハデスの傘下だからってお前いつかヤられんぞ」
歩と番犬の会話を聞く限り、今回は敵対することはないようで安心した。
そんな雑談を何処か遠くに聞きながら自分の手の平を見る。
心の中で火がついた導火線がゆっくりと上がっていく音が聞こえる。
まるで身体の中心が熱くて、それと同時に興奮する本能の叫びが木霊する。
それをまだほんの少しの理性が食い止め、“血塗りの獅子”を制御する。
この抜けきれない感情は何時になったら止むのだろうか。
戦いを求めていたようなこの興奮は、いつになったら鎮まるのだろうか。
己の安直な戦闘本能に苦笑しながら歩を見る。
「……歩」
「ん?」
会話の途中で付けた煙草を加えながら歩が此方を振り向く。
「気ィ遣わせて、すまねえ」
「は…………?」
加えたてた煙草がぽとり、と虚しく地面に落ちる。