散らないサクラ



それからプラカード片手に学内を歩き回ると、番犬は早々にナンパしに消え、俺はリオンの輩に捕まった。

男に群がられる図と言うのは他者からも見ても目にいいもんじゃねえ。

だが、わらわらと俺の周りに集まってはコスモスの時のように目を輝かせる輩たち。



「秋さん、会いたかったっす!!」

「総長、あ、そっか、今は違うんだっけ……、あ、秋さん! その服似合ってます」

「秋さん、秋さん、俺、この間秋さんが使ってた回し蹴り相手にぶち込んでやりました!」

「聞いてくださいよ、こいつ、総長が抜けた日号泣して暫く家に籠ったんっスよ」

「ちょ、やめろや! つか総長じゃねえだろ」



ギャンギャン、ワアワア、犬かてめえらは。

聖徳太子じゃあるまいし、俺はてめえらの声を一個一個拾える技術もってねえぞ。

耳につんざく声に眉を寄せるが、リオンの連中は俺に会えた嬉しさからか声を上げる事をやめない。

こめかみに筋が立ちそうになった時、歩が苦笑いを張り付けながら耳打ちする。



「許してやってくれや、マジでこいつら秋の事慕ってたからさ。……ホント、嬉しいんだわ」



コスモスを俺のものにしてから、輩たちとは会っていない。

そんな薄情とも言える俺に、こいつらは会いたいと思っていたんだろう。

何処まで馬鹿なのか、親鴨に付いていく小鴨並みの思考なんじゃないだろうかと呆れたため息が出る。

だが歩に言われる前からこいつらに怒鳴る気もさらさらなかった。

こんな餓鬼で屑だった俺についてきてくれた、大事な仲間だ。


例えチームを抜けた今でもこれだけ俺を思ってくれる輩がいる事に、素直に嬉しいと思う。


こんな俺を慕ってくれて感謝の情すら浮かんでくる。






< 193 / 300 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop