散らないサクラ
ゆっくりと心臓が呼吸して喜びも、そして痛みも伝えてくる。
目の前に広がる景色はお前が作り上げてきたものなんだと訴える。
羽佐間が意を決して発した言葉は気分を害するものなんかじゃなく、心の底からコスモスを解散させて良かったと思う爽快な気持ちだった。
さっきの雰囲気から一転し、再び騒ぎ始めた輩たちに苦笑しつつ、此処にいるリオンのチームに心から感謝をした。
「おら、お前らあんまり秋を困らせんな! また遊びに来るって言ってんだから、散れ散れ」
歩の一声に輩たちが渋々と言った様に別れの言葉を投げてくる。
「秋さん、約束ですよ! 必ず来てくださいね」
「待ってます」
「今日来れなかった奴らにも伝えときます!」
全部に返答は返してやれねえが、頷いて単語で対応する。
それでも満足そうに笑って去っていく連中を見て心臓が温く熱を上げていく。
羽佐間も聞きたい返答が聞けて満足したのだろう、去り際は粘る事無く早々と立ち去った。
そして漸く最後の塊が背中を向けたのを確認して、ため息を吐き出し歩を見る。
「……若干、行く気失せた」
「ははっ、そう言うなって。……でも、ありがとうな」
「何がだ」
「ちゃんとあいつらの話に耳を傾けてくれて。やっぱお前丸くなったわ」
柔らかく笑う顔に小さく笑い返す。
「今更だが、あいつらの事、頼んだ」
本当はこんな言葉、解散を告げた日に言うべきだったが、自分の事で一杯だった俺はそこまで頭が回らなかったようだ。
コスモスの総長として、受け継ぐ誇りと仲間を、新たなリオンの総長に。
その言葉に驚くでもなく頷くでもなく、“総長”の顔をした歩は笑った。
「言われなくても。大事な俺の仲間だからな」
曇りも迷いもないその言葉に、零れたのは不覚にも優しい笑みだった。