散らないサクラ
『おめでとうございます! 穂波選手、前々から結婚の話題は出ていましたが、いざこうしてメディアに出るご気分はどうですか?』
『嬉しいですね! 俺はずっと蒼乃と結婚したかったので』
『まぁまぁ、お熱いですね! では川上選手、プロポーズの言葉なんて……どうでした?』
『ええ、聞くんですか? ちょ、蒼乃言わないよね?』
『……言わないよ。心の中に閉まっておきたいので、ノーコメントで』
クスクスと笑いあう声。
記者会見だと言うのにまるで気にしてない様子は培ってきた時間とか、想いとかが2人の間にあるからなんだろうと思った。
口にしなくても分かる、幸せなんだろうって事が。
「あは、幸せそう」
同じように弥生も思ったのだろう、他人行儀ではあったが口をついて出たみたいだ。
微笑みながら画面を見つめる姿に心臓が揺れる。
俺はキッチン台付近に置いてある弥生と旦那の写真を横目で追う。
……画面の中の2人同様、言葉にしなくても幸せなんだと分かる笑顔の結婚式。
ぐじゅ、と心臓が潰される。
嫉妬心、と言う可愛い言葉で片付けられたならどれだけ良かっただろうか。
嫉妬して怒り狂ってそれを相手にぶつけられたら、こんな思いをせずに済んだのだろうか。
急に襲ってきた焦燥感にソファの上で姿勢を正す。
「弥生」
「んー?」
「お前も、こんな風に幸せだったか」
焦燥感を逃がそうと口にした言葉だったが、割と安定した音を出した。
その言葉にテレビから視線を外した弥生は光の無い目で俺を射る。
「そりゃあね、幸せだったよ」
この目で見られる事に慣れはしない。