散らないサクラ
いつ見られても恐怖心も煽られ、落胆もし、焦り、悲しくなり、そして無性に腹が立つ。
だが、そんな弥生も弥生の一部なんだと思うようになった。
全てひっくるめて弥生を愛したいとそう強く感じるようになった。
庇護される対象から、庇護する対象へ変化するのと同じくらいまるで自然な流れだった。
光のない漆黒の闇を見つめる。
「俺の話、聞いてくれるか?」
抑揚のない声で告げると弥生は小さく頷いた。
「……お前を桜みてぇだって話したよな。覚えてるか知らねえけど」
「覚えてるよ」
「堂々と咲き誇るお前の中の桜が綺麗で、羨ましくて、欲しかった」
凛として、散ることが本望だと言わんばかりに立つ、大きな桜。
「俺の中にも“桜”があるって言われた時は天地がひっくり返ったみてぇな感覚だったけど、まだ確信はなかったンだ」
コスモス、秋桜。
今でもあの衝撃は忘れられない。
俺の桜があることを気づかされたあの衝動。
「だけど、最近思う。……俺の中の“桜”を感じるって。まだ弥生みたいにでかくもねえし、満開に咲いてるわけでもねえけど。1本、立ってるのを感じるンだ」
「…………」
「こんな事、昔の俺だったら気持ち悪すぎて考えるのも、口に出すのも吐き気がしていたと思う」
全てに嫌気がさし、そう、生きている事すら苛立ちを覚え。
変えられない日常とただ勝手に流れていく時間に怯えていた。
真っ赤に染まった拳が自分のした罪を責め立て、それから逃げるようにまた拳を振るい。
悪循環の繰り返しに入り込んでいた。
そんな俺に手を差し伸べ、笑ってくれたのは、お前だった。