散らないサクラ
「こんな事言うと、お前は違うって言うんだろうが。弥生が俺の日常を変えた」
「大袈裟じゃない?」
からかうような言い方に首を振る。
「誇張はしてねぇよ。……俺たちの城にアンタが来たあの日から、俺の日常は変わっていった」
桜吹雪の舞い散るあの風景は今もありありと、この脳裏に焼付いてる。
「アンタには色々教えてもらった。口じゃ言えないほどたくさんの事を、お前は俺に与えてくれた」
本当に数えたらキリがないくらい、たくさんの事。
人間でも人間じゃなかった俺に、人間としての感情を全て与えてくれた。
勝手に綻んでいく顔を俺は止めなかった。
「……はっ、……文化祭の時、チームの奴らにあったんだ。そン時、“幸せか”って聞かれて……思わず笑っちまった」
――――『いま、幸せっスか!?』
今思い出しても笑える。
決心したあの時の瞳が俺を案じているのを必死に伝えていた。
殴られるかもしれねえ、怒鳴られるかもしれねえ、そんな思いを抑えて発した言葉に驚いたのと同時に笑いの興奮が襲ってくる。
こいつ、俺の幸せなんか願ってるのか、って。
「俺が誰かに幸せ願ってもらえるなんて思ってみなかっただけに、すげえ面白かった」
「気持ち、分かるよ」
「ああ。……そんな風に思う奴がいた事を知れたのは、弥生のお陰だと思ってる」
弥生らしくない困ったような笑みが此方を見る。