散らないサクラ
「お前を守ると約束する、一緒にいると約束する、幸せにすると約束する。……子供も作ると約束する」
何もかも、お前の隣じゃないと成立しない約束だ。
「俺の幸せはお前の隣だから。……俺を男として見てくれ、頼む」
幸せか、と問われて幸せだと断言できたのは。
弥生、お前が隣にいたからだ。
お前が与えてくれたたくさんの感情や思い出に守られて、更には好きな女の隣にいられる。
それを幸せ以外になんて言うんだ。
俺の幸せは、お前で成立する。
射るようにして真摯な眼差しを向ければ、弥生の顔が歪んだ。
また泣くのかと思って一瞬焦ったが、すぐに表情を変えた弥生を見て安心する。
……女の涙があんなにも破壊力があるなんて知らなかった。
「あは、あはははっははは」
餓鬼の様に声を上げ、手を叩いて笑う。
それが終わる間、俺は顔色を変えず弥生の顔を見続けた。
「あははっ、……はーっ、あは。……竜も、秋、アンタもよくこんな女好きになったよ」
笑いすぎて目尻から溢れた涙を指で掬い、弥生は俺を見る。
さっきから色を見せなかった瞳に、僅かな光が宿る。
「……昔話をしてあげる」
微かに口角を上げた弥生に、ゆっくりと頷く。
「あたしね、結婚はしないって決めてたの。別に愛の無い結婚が嫌だからとかじゃなく、結婚すれば跡取りを産め、ってなるでしょう? 生んだ子供は極道の家紋を背負わなきゃいけない。あたしと同じ苦しみを味あわせるかもしれない。そうじゃなくても極道って言うだけで風当たりは厳しい。……そんな連鎖悲しいだけじゃない。それにその頃のあたしは極道から足を洗うなんて事、考えも付いてなかったからね。……自ずと、結婚しないって考えが定着してた」
だけど、それが覆された事を知っている。