散らないサクラ
幾度となく見てきたキッチンのカウンターに置いてある写真立てが、言葉もなく体現していた。
「だけど、アンタの旦那がそれを覆したんだろう」
「そ」
ふ、と溢れる笑みに慈しみが感じられる。
「熱血と言うか、自分の気持ちに正直と言うか。教師と生徒と言う関係だった頃から、竜はあたしに好意を向けてきたの。笑っちゃうだろ? “人を好きになるのに教師も生徒もない”って。それから所謂、秘密のお付き合いが始まった訳。それが確か……、高校3年の春からだっけなぁ」
知りたかった弥生の過去。
知りたかった弥生の男。
……いや、知りたいようで知りたくなかった。
弥生がこの男を愛している言葉を俺は聞きたくなかった。
俺には勝ち目がない、と断言されるようで怖かったが、今は違う。
言い方は悪いが、
――――死人に何ができる?
俺は今を生きている。
弥生を愛せるのは、今を生きている俺だ。
なあ、そうだろ。
「付き合ってからも色々あったんだけどねぇ。今思えば、そのどれも意味のあったものだったんだって感じるよ。1番衝撃がでかかったのは、やっぱり親父との確執だね」
瞳の奥に揺らぐ光が色を増す。
言葉一つ一つに、溢れんばかりの感情が詰まっているのは声色で分かる。
弥生はその当時の事を語る。