散らないサクラ
「“腹割って話してみなくちゃ、人の本質なんて分からない”、そう言って嫌がるあたしを引きずって父親に会わせたんだよ、あいつ。……あん時はマジで殺してやろうかと思ったわ」
相当暴れたんだけどね、と懐かしむ声。
「……結果的に分かったのは、両親の愛情だった。あたしの母さんがね、親父に頼んだんだって」
『私は極道に生まれ苦しい思いをして生きてきた。それが宿命だと思って、苦しみながらも生きてきたわ。……でも、弥生にまで同じ思いをさせたくない。弥生には堅気の人間と結婚して、普通の生活を送って欲しいのよ。強いようにみえて、あの子はとても脆いわ。今からでも遅くない、跡取りに男の子が欲しいの』
「あたしを生んだ後、子宮がんが発覚して、もう子供産めない体になってたの、母さん」
それでか、と一人心の中で納得する。
「あたしを産んでから跡取りの話ずっと言ってたらしいんだけど、親父は首を縦に振らなかったんだって。“お前がいるのに他の女なんかに目がいかない”って」
話の序章で分かるのは、弥生が両親から本当に愛されていたという事だ。
そして弥生も自分が愛されていたんだという事を理解し、自分の中で過去を消化している。
「でも、母さんの粘り勝ちだったみたい。親父は今の義母さんと愛人関係を結び、疾風が生まれた。その後、母さんの病気、癌が再発して他界。……姐さんがいなくなれば、当然のように姐さんの席を埋めるため、義母さんと再婚」
複雑な話に眉を寄せながらも小さく頷く。
「話の真相を聞いて、思わず泣いたわよ。親父を殴ってからね」
「……想像着くな」
「ま、母さんが黙ってて欲しいって言ったみたいだけど。娘としてはね、裏切られて傷つきまくったわけだから、それぐらい当然でしょう」
「まぁな」
「親の庇護のもと、あたしは生きてきた。……父さんは母さんを愛していた、裏切りじゃなかった。それだけ知れたら、あたしはもう十分だった、ほんと、十分」
当時を思い出してなのか、安心したため息が溢れた。