散らないサクラ
その頃の弥生にとって大革命だっただろう。
殺したいほど憎んでいた相手との和解は世界が180度回転するはずだ。
それを成し遂げた弥生の旦那には、“さすがだな”と心の中で拍手を送りたい(柄じゃねえが)。
「……それから、すぐに“はい、仲良し”とはいかなかったけけど、段階を踏んで今は家族として親父も疾風も、義母さんも愛してるよ」
「アンタの旦那はすげえな。……俺からしてみたら猛獣使いだ」
「ぷっ! それリョウにも言われた。あたしはライオンで、竜は飴と鞭を持った猛獣使いだって」
ああ、イメージぴったり。
ケラケラと屈託のない笑顔で笑う弥生を見据える。
餓鬼の様なその顔に、心臓がギシリ、と歪んだ。
「……なぁ、弥生。聞かせてくれよ、アンタが旦那と結婚したわけを。極道を捨てた、その覚悟を」
心の軋む音を抑える準備も、痛む思いを抑える準備も、出来てる。
お前の過去を聞いて、格差に傷ついても立ち上がる術を俺は知ってる。
だから、話してくれ。
お前の過去も、今も、全部、知りてぇんだ。
笑顔を引っ込めたその瞳が、すっと俺の瞳の奥を見据える。
悲しみの色なのか、暗い色の瞳とかち合い、再び俺の心臓がギシリ、と歪む。
「いいよ、話してあげる」
憂いを帯びた笑みが、薄らと唇に貼り付けられる。