散らないサクラ
「そりゃ、色々あれば人間変化するもんだろ」
「……そうだね。あたしが言うのも変だけど、秋は凄く成長したと思うよ」
「弥生を筆頭に、俺に手を差し伸べてくれる人間が多かったからな」
事実だが冗談っぽく言うと、弥生は日溜まりのような優しい笑みを見せた。
そして、瞬きを数回繰り返した後、
――――涙がこぼれ落ちた。
今度は俺が目を見開く番だ。
あの時と同じ、心臓が恐ろしいほど早鐘を打ち、脳内はパニックになる。
声をかけようとするのに、口は空いたまま言葉はいつまでも飛び出さない。
情けないとは思うものの、やはり女の涙にはどう対応したらいいの分からねえ。
それも愛しい女の涙だとしたら尚更だ。
ただその情景を驚愕しながら見守る俺に、弥生は顔を歪めるでもなく、微笑みをたずさえたまま口を開く。
「秋、アンタが好きだよ」
「―――――は?」
つーっと弥生の頬を一筋の涙が伝う。
それと同時に、俺の思考回路が一時停止。
ぽたり、弥生の涙を絨毯が吸う。
それと同時に、俺の思考が言葉の意味を理解する。
じんわりと、心臓から温かい液体が流れ出すのを感じた。
「いつから好きだったのかなぁ、分からないけど。いつの間にか、秋を好きになってた。……そんな自分に気づいて、“竜への裏切り”だって思った。ははっ、あたしって本当に何処か堅いんだよねぇ。だから、秋には冷たい態度を取った事もあったと思う」
ごめんね、と弥生の謝る言葉が耳に入る。