散らないサクラ
扉の閉まる音に3人のため息が重なる。
思っていることは同じだったようだ。
「悪いな、秋。俺も一応言っといたんだけど、やっぱ敵としての認識の方が強いみたいなんだ」
「やっと胸糞悪い視線から開放されたよ、ありがとうね獅子。もう少し続いてたら、俺、手出ちゃってたかも」
「おいおいおい、冗談でも笑えねえから」
「あは、嘘だよ」
2人のやり取りを横目に、冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを取り出し喉を潤す。
話を続けるよう、歩に目配せをすると、“その前に”と真剣な瞳が俺を射る。
「今回は参戦してくれて、マジでありがとう。感謝してる」
「ンなのいらねえよ、俺の意志だ」
俺の方こそ、礼を言わなきゃいけねえ立場なのに。
それ以上喉元に詰まって感謝の言葉は出てこなかった(情けねえ)。
「佐倉さんには話したのか?」
「ああ」
内容を説明し、俺も参戦の意思がある事を伝えると、弥生は眉を寄せた。
手放しに行って来いと背中を押されるとは思わなかったけど、この反応は予想外だった。
『これっきりだ、もう二度と利益のねえ喧嘩はしない』
不安のあまり、言い訳みたいな事を口走ると弥生は吹き出した。
『別に責めてるわけじゃないよ。……ただ、心配なだけ。大きな喧嘩に、大きな怪我はつきものだからね。アンタが無事でさえいれば、あたしはそれだけでいい』
まごう事なき、俺に向けられた愛情に思わず抱きしめたくなる衝動を必死に抑えた。
直球にぶつけられる感情に歓喜し、一挙一動しそうになってしまう。
心臓辺りをぐっと押さえ込み、にやつきそうな顔を手で隠し弥生を見る。
『……あんまり派手に怪我しないように気をつける。すまねえ、心配かけさせて』
『ははっ。ん、秋が強いの知ってるけどさ、とりあえず無事で帰ってくること』
その時の事を思い出し、口元がゆるみ出すのを気合で制す。