散らないサクラ
「なんかさぁ、番犬ってムカつくんだけど話してみると別に普通のやつなんだよなぁ。敵どうしじゃなかったら仲良くなってたかもしれねえな」
「……俺は御免だ」
吐き捨てるように言うと、歩が声を上げて笑った。
修理工場の休憩所。
それが俺たちの城だった。
時間に追われ、生きることに意味すら見出せなかった頃、同じ毎日を繰り返し、歯がゆさを感じていた頃。
此処から始まり、此処で終わり。
――――コスモス、……俺の桜だ。
ソファに背を預け、天井を見上げて、何処か懐かしさを感じ歩を見る。
「……歩、チームの奴、ガレージに呼んでくれ」
「……ああ」
悟ったような返事に、さすが俺の相方だなと、笑みが溢れた。
* * * *
10分後、ガレージには見慣れた輩たちが集まった。
俺の言葉を聞こうと静かに待っているその空間に立つと、まるであの当時に戻ったようで不思議な感じがする。
真剣な視線を浴びながら、口を開く。
「まだ仏との情報は解禁できねえ。言った所で混乱を招くだけだからだ。今までにないでけえ喧嘩になる事は確かだし、てめえらもそれを分かってると思う」
ごくり、と唾を飲み込む音が何処かで聞こえる。
「中には恐怖を感じてその自分が恥だと思ってる奴もいンだろ? 恐怖を感じて当たり前だ、恥だなんて思うんじゃねえ。ンな自分がいて当たり前だ。自分と向き合って、本番までに心構えが出来てりゃいンだ。……時間はある、それぞれが出来ることをしろ、いいな」
頷く物もいれば、返事を返すものもいる。