散らないサクラ
* * * *
ち、ち、ち、ち、ち。
時計の音が鮮明に聞こえだし、視界が歪み、明確性を失わせていく。
ああ、やべえ。
緩やかに真っ赤な色が侵蝕していく。
赤く、あかく、アカク。
思考も視界もなにもかも、飲み込んでいく。
――――マッカニソマル、ナニモカモ。
だけど今回は恐怖よりも何よりも、温かく心地いい感覚が広がって行く。
いつもは恐怖を感じると早鐘を打つ心臓も、ゆっくりと、ゆっくりと脈を打つ。
暖かく、誰かの腕に包まれているような。
弥生の愛情を思わせるような。
でもこれはそれとは似て非なるもの。
ああ、――――母さんか。
母さん。
アンタが俺を呼んでいるんだ、と。
一緒に逝けなかった俺を恨んでいるんだと、そうずっと思ってた。
だけど、あれから11年。
決して真っ直ぐじゃねえ、汚く曲がってひねくれた道を歩んできた俺の中で、それは間違いだと気づかされた。