散らないサクラ


「部屋に呼び出された俺の前で、あいつは自分の腹を掻っ切った」



噴出される、赤、赤、赤。

綺麗な顔は歪み、整った唇は形を失う。

そして一言、



―――― 一緒に、逝きましょう。



ギラリと光る凶器のナイフが矛先を俺に向ける。



「震える足は逃げることなんて出来ねぇ。その先端は同じように俺の腹に刺さった」



痛みよりも熱く、その場所だけ火を灯されたみたいになる。

悲鳴よりも早く、足はバランスを崩し体を支えることをやめる。

ああ、死ぬんだ、と冷静に考えたあと、俺は瞳を閉じた。



「目覚めたら真っ白な天井。聞けば、心中を計ろうとしたばばあだけ死亡。俺は一命を取り留めた」



それから、心は狂う。




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