散らないサクラ



伸ばされた手が頬に触れる。

感じるはずもない体温が頬に乗る。

温かい手、あの人の、手。



心臓がドクリ、と小さな音を立てて鳴る。



「――――……一緒に逝けなくてごめん、母さん。もう、平気だから……だから……」



ずっと心の奥底で燻ってた思い。

思い出すたび苦しくて、残された俺に出来る選択肢は限られていて。

一人ぼっちで逝ってしまったアンタを思うと、俺は此処にいてもいい存在なのかと疑問が生まれては消え、生まれては消えた。



だけど、愛される喜びも、愛す喜びも教えてくれた愛しい女と出会い、その女の幸せを願った。

幸せにしたいと心の底から思えた。

そんな女と、俺は最期のその時までいたいんだ。


だから、だから。



「俺が死ぬまで、待っててくれよ」



幻影の彼女が慈しむような微笑みを携えた。

美しく、優しく、温かいその笑みは俺の心の中にある罪悪感や蟠を溶かしていく。

ゆっくりと彼女の瞳が揺れ、そして口が形を成す。



『あきは、あいしてるわ』



真っ赤の波がゆっくりと、ゆっくりと引いていく。

何もかも、全て許されるような感覚が体中に浸透し、心が震える。





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