散らないサクラ
その度思う。
俺の何処を?
笹切の寄せた眉がゆっくり伸び、口元に薄らと笑みが貼り付けられた。
「だから、ですかね」
「あ?」
「暴力を振りかざして、自己中心的な貴方だからついてきたんじゃないですかね」
「てめえ、適当に言ってねえか」
「いやいや、マジですよ。……勿論、“憧れ”の気持ちが強い連中は大勢だと思うし、カリスマ性もあるからだと思いますけど。それだけじゃなくて、完璧になりきれない危うさや、暴力でしか対処できない、そもそも解決すら出来ない所だとか。……ああ、この人も“人間”なんだって。俺たちと同じ傷を持って、俺たちみたいに存在の意義が欲しい人なんだって。そう、思えたからですかね。……餓鬼で自己中で、不完全で。だからこそ、貴方についていこうって思えたんだと思います」
妙に説得力のある言葉に、言葉を詰まらせる。
まさかそんな答えが返ってくると思っていなかっただけに次の音が繋げない。
だからと言ってどんな答えが返ってくると思ったかと聞かれても、上手く言えないが。
もっと単純な、そう“憧れ”や“強さ”だけならば想定内だったかもしれない。
「っはは、自分で言ってて気持ち悪いですね。……あー、でも、そういう事なんだと思います」
恥ずかしさからなのか、視線を逸らし空を見上げた笹切はそれでも、どこかすっきりとした顔をしていた。
俺も後を追うように空を見上げる。
分厚い曇天が広がっていた。
不思議な気分だった。
欠点があるからこその“コスモスだった”と、そう言われた気分だ。
あながち間違いでもないか……。
否定していた己自身を肯定される。
それは慕っていたと言葉で言われるよりも実感のある事だった。
手の中で握っていた缶コーヒーが温くなっていくのを感じつつ、液体を腹に落とす。
静かに波打つ心臓がその熱をもらって、じんわりと熱くなる。