散らないサクラ
「わぁってらぁ! ……左から3番目、あいつスタンガン隠し持ってる。用心しろぉ」
ハデスの総長が声を上げると、次々に情報を共有しようと声が上がる。
情報が飛び交う中、痺れを切らしたのだろう仏の数人が仕掛けようと動くのを捉える。
心臓が冷気の炎を帯びる。
「来ンぞォ!」
雄叫びに近い声を上げて警告を発すれば、周りの奴らが一斉に的を絞る。
全てが熱を帯びる。
血管中の液体が煮えたぎり、足を動かすたび、手を動かすたび、吹き出る熱気。
飢えた獣のように目の前の獲物に眼球がせわしなく動く。
そこら中に散らばっている重たい怒気や覇気に体は、心は高鳴るばかり。
拳は血を吸い、攻撃を受ける場所は赤く血を吐き出す。
大嫌いだった赤色が飛び散る。
無意識に口角が上がる。
「はっ……、たまんねぇな」
ぼそり、と独り言のように呟けば目の前にいた仏の顔が引き釣った。
その顔を最後に、顔面にお見舞いすれば仏の体はそのまま後ろに落ちる。
――――次の瞬間、左頬に衝撃。
奥歯がギュル、と気持ち悪い音を立てた。
状況を確認するために眼球が動く。
一瞬にして体制を立て直し、相手を捉える。
仏がにたり、と笑う。
「やっほぉ、“血塗りの獅子”」
番犬を思わせる気だるい言い方に舌打ちが出る。
口の中に溜まった血を奴の足元に吐き出せば、ぴくり、と笑っていた眉が動く。