散らないサクラ
その一直線に刺さる憎悪の視線に心臓がドクリ、と血を吐き出した。
久しく感じていなかった恐怖がゆっくりと頭をもたげる。
血を求め光る刃物がにたり、と笑う。
ああ、あの時と同じ感覚だ。
母さん、アンタに包丁を突きつけられた時だ。
アンタの瞳は目的を遂行するために一直線に俺を見てた。
“逃げなくちゃいけない”と思いながらも、逃げられない。
あの時と同じ恐怖が今、目の前でニタニタと笑っている。
ごくり、と喉が鳴る。
「……心配すんな、殺さないよ。弟と同じ痛みを与えるだけだから」
仏の言葉を聞きながら、瞳の奥に揺らぐモノを見つける。
目の前の男は弟の敵を倒すと言う目的の元、今日まで耐え、好機を待っていた。
殺したいほど、俺を憎んでいたに違いねえ。
こいつにとって弟の存在がデカイ事は序章から分かった。
もし、俺が大事な人間を傷つけられたら、同じことをするだろうか。
断言できる、する。
前科もある。
弥生が番犬に拐われた時がいい証拠だ。
あのまま止められなかったら俺は確実に番犬を殺していた。
吸った息を静かに吐き出すと、鮮明に弥生の声が聞こえてくる。
――――『でも、ここで秋が終わらせてやらなくちゃ、いつまで経ってもこの子は苦しむ事になってた。あんたしか終わらせられない』
そう、番犬と決着をつけたあの日に言われた言葉だ。
自分のした責任をしっかり果たせと、暗に言われていたのだと今だから気づくことが出来る。