散らないサクラ
ゆらりゆらり、揺れ動く刃物に向けていた視線を上げる。
「……お前、俺を刺して後悔しねえか」
「するわけないじゃん。ずっとお前を殺したかったんだからさ」
「そうか」
腹部に手を当てる。
母さんに刺された場所を服の上から撫でる。
――――もう、赤は追ってこない。
「俺を刺せば、てめえは満足すンだな。……気は晴れンだな?」
「……なんなんだよ、なんなんだよ!! ンな、顔してんじゃねえよ、キモチワリィ! ……“血塗りの獅子”なんだろ? もっと、もっと、傲慢に噛み付いて来いよ!!!」
ああ、またか。
俺の言葉は相手を逆上に追いやるしかねぇようだ。
揺らいだ決意のまま、不安定な刃物の先端がこちらへ向かってくる。
――――ドスッ!
「――――あっ……」
仏の口から頼りない声が漏れ、体重が体に伸し掛かってくる。
スピードと衝撃を受け止め、身体が数歩後ろに下がる。
頼りない足取りはそれでもそれを受け止めきる。
「――――満足、したか」
詰まった息を吐く。
「…………」
「人を刺すって、怖ぇだろ」
刃物の先端は俺の肉には刺さらず、胴と腕の隙間を裂いた。
頼りない銀色の道筋は簡単に読みきれ、向かってくるその瞬時に身体を移動させた。
予測通り、体同士は体当たりをしたが刃物は腕の隙間に入った。
俺の吐いた言葉に、仏の体が一瞬ぴくりと震える。