散らないサクラ
* * * *
「はぁ、はっ……は」
刃物が無くても、大山はなかなかに手強い相手だ。
スピードが早く、目で追いながらも追いきれない。
避けきれず拳を食らった頬は、当たりが悪く唇の端がパックリと切れた。
口の中に広がる鉄の味が、じんわりと体の痛みを麻痺させる。
久しぶりに味わう、この感覚。
痛みも、アドレナリンが放出する興奮状態も、全て。
「はっ、……やべぇな」
好機を伺っている大山を視界に捉えながら自嘲し、呟く。
この痛みや麻痺する感覚でさえも楽しいと思えてしまう狂気じみた感情に、まだまだ自分の青さを実感する。
大山の左目は先ほど一発食らわせた所為で赤黒く腫れあがり、視界が悪そうに目を細めている。
使えるモノ(目)は早めに潰しておく方がいい。
そんな慈悲もない考えも脳内では常に流れ出る。
未だに息が整っていない大山目掛けて走り出す。
身構えていた大山はそれに応戦しようと前傾姿勢を取る。
ゆっくりと口角が上がる。
俺は両手を組み拳を作り、それを大山の脇腹目掛けて食い込ませる。
応戦しようと足を振り上げた大山の攻撃を足で受け止め、バランスの崩れた体をそのまま蹴り上げる。
「ガッ、ハァ! ぐっ、…………ァっ」
一瞬宙を舞った大山の体は地面に派手な音と共に落ちた。