散らないサクラ
――――勝敗が決まる。
低い呻き声を上げながら、大山は落ちた時の体制から仰向けに変わる。
唇は切れ、左目は潰れ、拳は真っ赤。
なんて無様な。
そして、勇ましい姿だ。
上がった息を整えながら大山の近くに移動し、隣にしゃがみこむ。
「――――負けた……、はっ、つっ……。俺の、負け」
「俺はまだヤれるぞ」
「はっ、……勘弁してよ、このカイブツ」
痛みに顔を歪めながらも、その顔は数分前に出会った時よりもすっきりとしていた。
俺はすっと拳を突き出す。
大山と同じように真っ赤に染まった拳を、凝視され、そして次いで同じように拳が差し出された。
大山の弱々しい拳と俺の拳がコンツ、と合わさる。
敵であるのに、まるで仲間のようなワンシーンを鼻で笑う。
「タイマンなんて久々だからよ、すげぇ楽しかった」
心の底からそう思う。
自然と出た純粋な笑みに、大山は一瞬目を見張る。
体を起こす気はないのだろう、仰向けで腹を上下させながら咳き込んだ。
「げほ、ごほっ、あー、痛い。……やっぱアンタの強さって尋常じゃないね」
率直な感想に吹き出す。
貴重な経験だ。
倒した相手から賛美を貰うなんて事、今まではなかった。
昔なら賛美されたとしてもむかっ腹を立て、直様第二ラウンドに直行していたに違いねえ。
そう思うと、今の自分の変化がとても心地よく、同時に世界がこんなにも広がったことに驚く。
小さく吸い込んだ息を吐く。