散らないサクラ
「……大山、お前さえ良ければ今度弟の病室に連れてってくれねえか」
「――――っ!」
「今更かも知れねえし、怒り、拒絶されるのも当然だ。だが、詫びを入れさせて欲しい」
「…………」
きっと俺が傷つけてきた人間は腐るほどいる。
その全部に詫びを入れたいなんて善意な人間になった訳じゃない。
だが、目の前にぶつかってきた人間が傷つけられたと訴えてくるなら、それに対して誠実に応えていきたいと思う。
これが最初の一歩になれるよう。
返事を待つ間、妙な緊張が走る。
大山は瞠った目を緩め、そして空を仰ぐ。
「……いっこ、聞いてもいい?」
「なんだ」
「なにが、アンタを、……獅堂をそんな風にしたの?」
腫れて痛々しい目が此方を伺うように見る。
その瞳からは敵意は感じない、ただ単純な興味だということが伺える。
息を吸って吐く。
口を動かすたび、痛みとそして広がる鉄の味に少し顔を歪める。
「お前、俺の身の上話なんか聞きてえのか?」
「……いや、ごほっ、あー、いてぇ。あの有名な“血塗りの獅子”がそんな丸くなってたら誰だって気になるでしょ」
昔の自分が相当酷い人間だった事は自覚済みだが、こう他人からも同じような評価を貰うって事は本当のろくでもねえ糞野郎だったんだろう。
苦く思いつつ、自嘲する。
「人を本気で好きになったんだよ」
「……は?」
「一生守ってやりてぇって思う女が出来たんだよ」
面と向かって言うのが小っ恥ずかしく、視線を地面に落とす。