散らないサクラ
半ば投げやりに出した声に、大山は黙りこくった。
ああ、居たたまれねえ。
何か文句でも言ってやろうと、顔を上げた瞬間。
「ぶっ、あははっははは! いて、あー、いてぇ! ははっあは」
盛大な笑い声が下から上がってくる。
時折涙を流しながら笑う大山を呆然と眺めていたが、段々と腹が立ってくる。
「てめぇ」
「やっ、だって、……ぷっ、あははっ! ……なんか、キモチワルイ! あはっ」
「……立て、もう一回しようぜ」
「ちょ、やめ! 吃驚して笑いが出たの! ごめんってぇ! それほど意外だったって事!」
地を這うような声と共に立ち上がれば、焦った大山が笑みを引っ込め、謝罪してくる。
そこまで気分を害したわけでもねえが、誰だって自分をネタに笑われれば怒りもするだろう。
鼻から盛大に息を吐き出し、呼吸を整えている大山を見下ろす。
暫くの沈黙。
口を開いたのは大山だった。
「凄い女なんだろうね、その人」
ぽつり、と漏れた言葉は何処か悲しく、そしてしっかりとした音をしていた。
「ああ」
弥生の旦那を猛獣使いと言ったが、今じゃ逆に思える。
さしずめ、獅子を手懐けた猛獣使いが弥生と言った所。
俺は弥生に頭を撫でられる感覚を想像し、知らぬ間に優しい笑みが漏れていた。
こんな喧嘩の最中にでさえ、浮かんでくる愛しい女。
お前が俺の原動力にすらなると言ったら、お前はまた大袈裟だと言って笑うんだろうな。
だが、事実。
いつも弥生、お前が俺を動かす原動力になってんだ。