散らないサクラ
「秋!」
「総長」
遠くに見える歩と笹切の姿。
手を大きく振っている様から、無事(安易に無事とは言いづらいが)だと確認する。
同じ様に片手をひらり、と振る。
安堵のため息と共に周りを見渡す。
ハデス、ケロベロス、それぞれ満身創痍ではあるが、この勝負の結果に満足そうな顔をしている。
じん、と浸透する歓喜の旋律。
広がるほどにこの喧嘩のデカさや意味を実感する。
ただ投げ遣りにした喧嘩じゃねぇ、守るという意味をなした喧嘩だった。
相手を取る、取らないじゃない、仲間と居場所をかけた戦いだった。
達成感を得た身体が、今更ながら震えだす。
ガタが来ていたのもそうだが、ただ単に己自信がここにいる事、存在する事が、酷く奇跡に近い気がして。
はっ、情けねぇ。
だが悪くねぇ。
こんな自分すら肯定出来るほど、心は穏やかだった。
震える身体に鞭を打ち、ヨタヨタと頼りないながらも足に重力をかけ立ち上がる。
ぎし、と再びあばら骨が悲鳴を上げる。
「ちっ、糞が」
口に溜まった血を吐き出しながら悪態を着く。
あばら骨だけじゃない、あちらこちら痛ぇ。
擦り傷、切り傷、痣、腫れ、なんなら歯も折れてるかもしれない。
無事で帰ってこいって言われてんのに、これじゃあ無事とは言いづらい。
頼りない足取りで歩き出し、負担にならない程度の声を張る。
「……死んだか?」
少し距離のある場所で番犬が仰向けに倒れている。
声を掛けると番犬が返事の様に盛大に咳をした。
「ごほっ、がほ、ふーっ、っつ、生きてまぁす、げほっけほ」
咳のついでに生存確認する。
痛い身体を引きずりながら、番犬の隣に移動する。