散らないサクラ
軽めに肩を叩けば、傷に触れたのか番犬が悲鳴を上げる。
それに笑い、番犬からも攻撃を受け、気づけば2人して笑ってた。
嗚呼、気色悪い。
男が二人して戯れ合って、まるでダチみたいに。
いや、知り合いとダチの境界線なんて、もうとっくに越えちまってるのかもしれない。
ただ、その事がむず痒くて、恥ずかしいから認めてないだけで。
番犬が立ち上がり、それに続く。
お互い足を引きずりながらも、前に踏み出していく。
片方は仲間のもとに、片方は愛しい女のもとに。
そんなに距離がある訳でもねえのに、弥生までの道のりが酷く長く感じる。
愛車の赤いバイクにフルフェイスを置くと、彼女はゆっくりと、でも確かな足取りで此方に向かって歩き出した。
早く、あいつの熱を感じたい。
腕を伸ばせば届く距離にいて欲しい。
お前の存在が何よりも俺を確かなものにさせ、そして同時に強くする。
「秋羽」
労わるような優しい音色。
「……弥生」
自分の発した物とは思えないくらい優しい声が、弥生を呼ぶ。
近くに来た弥生の表情は、腫れ上がった顔を見て少し悲しみに歪み、それでも此処に存在していることに安堵したように笑った。
あと数センチ、愛しい女の温度を味わえる歓喜から顔が緩む。
―――――だが、次の瞬間、心臓が早鐘を打つ。
両腕を伸ばし抱き込もうとした、その目線の先。
斜め後ろに番犬の仲間と笑い合う姿、そして、その奥。
ギラリ、と光る凶器の色。
緊張に身体の神経が強ばる。