散らないサクラ
ゆっくりと狭まっていく視界。
音がぼんやりと聞こえはするが、何を言っているのか分からねえ。
痛いはずの腹部にすら感覚が通わなくなってきてやがるのか、違和感を覚えなくなる。
視界の端に映る、番犬の驚愕の表情。
歩の焦りながら何かを叫ぶ姿。
笹切やハデス、ケルベロスの幹部達が俺に何か言っている姿。
そして駆け寄ってきて震える手を伸ばす、愛しい女。
ああ、弥生。
俺はまたお前にそんな顔させちまった。
ぼんやりとする視界の中でも、どんな顔をしているのか、分かる。
お前を幸せにするって約束したのに、早々にンな顔させるなんてな。
ホント、情けねぇよな。
「……よ、い」
今にも泣き出しそうな顔に向かって手を伸ばす。
頬に触れると、べっとりと綺麗な肌に血色が張り付く。
弥生は気にすることなく、その手の上から自分の手を重ねる。