散らないサクラ
泣いているかと思うほどその旋律は弱々しい。
「俺を庇って、刺されたの、あいつ。……俺の為に、あいつ」
「……蘭丸くんを庇ってお友達が刺されたの?」
女性はぞくり、と背中に悪寒が走るのを感じながら言葉を発すれば、男はより一層頭を肩口に摺り寄せる。
庇ったと言う事は、もし庇ってくれなければ此処にいる男が刺されていたと言う事。
不謹慎だと思いつつ、女性は男が無事だと言う事に少なからず安堵していた。
「血、いっぱい出てて。あいつ、真っ青で」
「うん」
「……俺なんか庇って……、あいつ」
「うん、うん」
「せんせえ、あいつ、……獅子、死んじゃうのかなぁ?」
震える声が、恐怖を告げる。
女性の背に回られた腕は頼りないながらも、ぎゅっと力を入れ、縋る。
怖い、怖いんだ、切に伝わってくる。
女性は此処まで弱りきった男の姿に、心が震えた。
それほどまでに刺された友人の事を思い、特別な感情を抱いていたんだと感じた。
男の背中に回した腕を伸ばし、頭に触れる。
埃っぽい赤髪を優しい温度が梳いていく。
「大丈夫、大丈夫よ、蘭丸くん。助かる、必ず助かる。……貴方を助けたお友達だもの、神様はちゃんと見てくれてる。絶対、助かる」
「…………俺、悪い子なのに?」
「悪い子じゃないよ、ちゃんと心優しいこと、私は知ってるから。……ね、だから、一緒に祈ろう。傍に行ってあげよう」
耳に落ちる女性の声色に、荒れ狂っていた心が静かに凪いでいく。
男は安心感を全身に覚えながら、ゆっくりと頷いた。
「獅子、くたばるなよ」
呟いた言葉にさっきまでの弱々しさはなく、希望の断片を覗かせていた。
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