散らないサクラ
-------------------------
「佐倉さん」
オペ室とは離れた待合室で、笹切修也は携帯電話を切った。
「他の連中もそれぞれ病院に行けたみたいです。命に別状のある奴は今のところありません」
「そう、良かった。ごめんね、秋の所に行きたいのに、最後まで尻拭わせて」
「それを言ったら佐倉さんこそ。もう大丈夫ですし、オペ室に向かいましょうか?」
「あたし飲み物買ってから向かうよ。何かいる?」
「いえ、大丈夫です。じゃあ、俺行きますね」
相手を惑わすポーカーフェイスの笹切だが、今はその欠片すら見当たらない。
佐倉弥生に早口で告げると、背を向け走り去る。
その後ろ姿を見送り、弥生は自販機へと足を向かわせる。
まるで思考と体が別人の様だ。
弥生はぼんやりと思った。
いつの間に自販機の前に到着したのか、それすら分からない。
記憶が曖昧だ。
お金を入れ、ミネラルウォーターのボタンを押す。
しんっと静まり返った廊下にペットボトルが落ちる音が響く。
それを拾い上げて、蓋を回そうとするが力が入らない。
指先が震えている。
「…………」
再び訪れた静寂の廊下に慌ただしく響く、靴音。
おもむろに顔をそちらに向ければ、額に汗を光らせたリョウの姿。
「弥生っ! ……は、はぁ……、秋羽は?」
「リョウ」
「生きてはいるんだよな!?」
荒々しい声に、弥生の体が反応し手に持っていたペットボトルが落ちる。