散らないサクラ
「リョ、ウ」
絶望に体が震えだし、支えきれなくなった足は膝から落ちる。
瞬時にリョウの腕がそれを受け止め、近くにあったソファへと移動させる。
座りながらリョウの体をきつく掴み、平常を保とうとするが、体がガグガグと恐怖を顕にする。
「ぁ……、秋羽が、……リョウ、秋羽がっ……! どうしよ、どうしようっ、し、死んじゃったら……リョウ!!」
恐怖が体中を占めた。
「竜二の時と……、同じになったらっ、還って来なかったら……っ! っっ、いや……、秋羽……っ」
「……っ弥生」
リョウが縋り付く弥生の体を抱きしめる。
強く強く、痛いと言われるくらい。
彼自身、怖かったのだ。
榎本竜二を亡くし、絶望を味わったのはリョウも同じ。
あと時の恐怖が蘇ってきては、感情の波が押し寄せる。
弥生の感情は既に己の中でセーブする容量を超えていた。
最愛の人を亡くす恐怖。
それをよく知っているからこそ、堪えることが出来ない。
とうとう、瞳からは大粒の涙が流れ落ち、嗚咽は激しく、息が詰まりそうになる。
―――――『――――あい、してる』
そう言って笑った顔を最後に、秋羽の意識は宙に舞った。
なんて幸せそうな顔して笑うんだろう、と弥生は思った。
人がこんなに心配して、心臓が止まりそうだっていうのに、なんて顔を、と。
それから何度名前を呼んでも、彼が目を開ける事はなかった。